『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】

第108話

 奥さんはハンカチを手に話しはじめた。
「私たちは募金でここに来たんですけど、募金が集まるまで時間がかかってしまって・・・もっと早くここに来ればよかった」
脱力した夫人は写真を見つめながら言った。

「そうですか、大変だったんですね」

・・・・・

「僕も残念です」何て言っていいかわからない昭太郎は同じ言葉を繰り返していた。

「ありがとうね、大林君は早く移植ができるといいわね」

「・・・はい」
 部屋の中にあるトランクに目をやった昭太郎。

その目線に気付いた榎本夫人。
「これね、私、主人を火葬したらすぐに日本に帰ろうと思って、片づけてたところなの」

「そうですか」

「主人もいなくなっちゃったし、早く日本に帰りたいのよ、ここは辛くて・・・」
 ハンカチで目元を押さえる夫人。

「そうですよね、辛いですよね」

「英語もうんざりだし、ここは話し相手もいなくて寂しいから、」

「そうですよね・・・すいません」

「何言ってるのよ、責めてるんじゃないのよ、みんな大変なんだから」

「・・・はい」

「わざわざありがとうね、主人も言ってたわ、大林君は若いのに大変だねって」

「ありがとうごいざいます、頑張ります。・・・頑張るって言っても待つしかないんですけどね」と軽く笑顔を見せる昭太郎。

「そうね、無事待てることを祈るわ、ありがとう」

 扉を閉めた。

何度もありがとうと言っていた奥さんの顔は涙でグシャグシャだった。

(磯野さんみたいにあっという間に移植になる人もいれば、待てずに死んでしまう人もいる。外国で死を迎えたということ。榎本さんは後悔しているのだろうか・・・ここまで来れただけで幸せなんだろうか・・・いや、どうせ死ぬなら日本で死にたいよな・・・よくわからねぇ・・・)

 昭太郎は帰り道に榎本さんの昨日の笑顔を思い出していた。