物語のある建物、可愛いキャラクター、はしゃぐ人達。
夢をみるための場所で、こんなにいたたまれない気持ちでいるのは、きっと私くらいのものだと思う。

車の中ではあんなに秋山を威嚇していた丈司さんなのに、パークに入場してからは駿河さんと手分けしてアトラクションの優先利用チケットの確保に奔走してくれている。おかげで私達子どもとマリアさんの四人は、この夏休みの大混雑の中、ほとんど行列に巻き込まれずに遊ぶことができている。なんだかんだ言って見守ってくれている大人達の気遣いを、一番ありがたがっているのは秋山ではないだろうか。ここぞとばかりにまとわりついて、あいりちゃんの隣を譲らない。一人あぶれてしまいそうな私に、マリアさんが気を遣って振る舞ってくれているのが申し訳ない。

せっかくだから楽しまないと、とマリアさんに提案されて買った、キャラクターがついたカチューシャ。あいりちゃんと秋山がおそろいのアヒルをつけて手を繋いで歩いている姿はどこからどう見てもカップルそのもの。学校では見るたびにいまいちしっくりこない二人だと思っていたのに。私の頭の上には、緑色した一つ目モンスター。二人を羨ましがっているみたいに見つめているに違いない。マリアさんの黄色い熊が、陽気な表情でずっと励ましてくれているようだった。

「楽しいね」

ときおり振り向いて笑ってくれるあいりちゃんに、同じように「楽しいね」と返す。
水しぶきのコースターも、お祭り騒ぎのパレードも、甘すぎるチュロスも。
本当は嘘なんかつかないで、心から楽しみたかった。


「ちょっと、はしゃぎすぎたかなぁ……」

夕方に差し掛かって、マリアさんが疲れてぐったりとしてしまった。お腹が目立たないから忘れがちだけれど、彼女は六ヶ月目の妊婦なのだ。連絡を入れるなりどこかで待機していた丈司さんと駿河さんがすぐに駆け付けて、まだ遊び足りないと駄々をこねるマリアさんをなだめながら、みんなでホテルへ戻った。