ところで。俺は今ひとりの女の子を探してる。

聞いた話によると、王子の妹もこの学校にいるっていうんだ。この事実が、入学してから一ヶ月も置き去りにされてたなんて、みんなどれだけ混乱してたんだって感じだよね。まったく重大、最重要事項なのに。

どんな子なんだろう。やっぱり王子に似てるのかな。でも双子で性別が違うってことは二卵性だよね。だったらぜんぜん違うタイプかもしれない。お近づきになりたい。もし王子みたいにキラッキラでおそれ多くても、相手が女の子なら俺は負けずに愛しにいくよ!

それなのに、どうして?探し始めて、もう一週間くらい経つのに、彼女はまだ見つからない。A組にいるのは調査済み。あいりちゃん、って名前なのも聞いたよ、名前からすでにカワイイね。だから休み時間や放課後にちょくちょくA組をのぞきに行ってるのに。あいりちゃんって、忍者か何かなの?忍んでるの?
毎日探すのに夢中になってたら、付き合ってた彼女をほったらかしにしちゃって、昨日ついにフラれた。まぁ、その子とはあんまり性格が合わなかったし、別にいいんだ。それより俺は、あいりちゃんに会いたい。

今日こそは、と昼休みにA組へ向かった、そこで俺を待ち構えていたのは。

「最近コソコソと何を嗅ぎまわってるの、秋山」

うるさいのに見つかっちゃったなぁ。手足が枝みたいに細長くて、日本人形にそっくりな髪型をしてる辛気臭い女、遠野円香。切れ長の目をつり上げて、教室の入口をふさぐみたいな仁王立ちが様になってるね。遠野もあいりちゃんと同じA組だから、気づかれないように注意してたんだけどなぁ。相手するの、面倒なんだよね。

なんでもないよ、ってごまかして逃げようとしたのに。

「知ってるのよ、王子の妹を探してるって」

あれ、バレてた。

「えー、分かってて今まで知らん顔してたの?ひどくない?」

「全然ひどくない」

「もしかして、あいりちゃんが今どこにいるか知ってる?」

「知ってても教えるわけないでしょ」

俺をにらみつける瞳の温度が氷点下だ。ほら、通りがかった男子が怖がって逃げてっちゃったよ。

「どうしてそんな意地悪するの?俺はあいりちゃんに会いたいだけなのに」

「まぁ抜け抜けとそんなことが言えるわね。己の行いを、よぉーく顧みてみなさいよ。会うだけで済ませる気なんてさらさらないことは分かってるのよ」

たしかに、会えたら仲良くなりたいし、仲良くなったら付き合いたいし、付き合ったらその先も、なんて考えてはいるけどさ。あくまでお互いが惹かれあった結果そうなるんだったら、なんの問題もないよね。なのに、どうしていつも俺の恋愛に目くじら立てるのかな。

「遠野、口うるさくて可愛くない。そんなんじゃいつまでも処女のままだよ」

「は、話をそらさないで!そんなふうに、いつもいつも、不健全な価値観で人を評価するのはやめなさい!」

言い回しが可笑しくて、ふき出してしまった。真っ赤になっちゃって、からかい甲斐があるなぁ。

「不健全な価値観ってなに?あはは、ウケるんですけど!」

「真面目な話をしてるのよ!もうっ……」

もっと突っかかってくるかと思ったのに、遠野は大きなため息をついて、すぐに冷静になってしまった。

「彼女は、秋山が思ってるような子じゃないと思う。だから興味本位で妙なちょっかいを出さないであげて」

「それを判断するのは遠野じゃなくて俺だよ」

「……それから!彼女だけじゃなくて、手あたり次第に女の子を口説くのはやめて。いい加減、見苦しいって気づいて。お節介なのは分かってるけど、幼馴染みがダメ男になっていくのは見てられないのよ」

なにを深刻になっちゃってるんだろう。俺のことダメ男なんて思ってるのは遠野くらいだよ。女の子はみんな、俺が笑いかければ喜んでくれるし、優しく接すれば好きになってくれるのに、同じことしたら遠野はムチャクチャ怒る。ほんと、変わってるよね。

あーあ、白けちゃった。あいりちゃんのこと教えてくれそうにないし、もういいや。

「どこに行くの?」

「べつに~。遠野がいないとこ」

あからさまにツンとして背中を向けたら「いつか痛い目みるわよ」って呪いみたいな声が聞こえてきて、ますます面白くなくて足早にA組から離れた。