言葉で突き放しながら、それでも離れていかないことに安心してた。
エッチなこと全然知らないのを見て気分がよかったのは、誰のものでもないことを確認できたから。
学園祭のとき、あの柔道部君が現れて過剰反応してしまったのは、遠野がちゃんと女の子だってこと、認めるのがこわかったんだ。つややかな少なめの髪も、あまり抑揚のない体のラインさえ、こんなにも女の子だっていうのに。

着ぶくれしてたって細いってわかる、その肩が震えてる。

「円香ちゃん」

自然と昔の呼び方をしてしまった。はじかれたように振り向いた遠野の頬には、涙がいくつも流れてて。
泣いてる女の子には、抱きしめて好きだよってキスして、ご機嫌を取ってしまえばそれでいいと思ってたし、そうしてきた。でも、遠野にはできない。ほんとに大切な子には、簡単に触れられないんだ。

「気づかなくてごめんね」

驚いてた遠野の顔が、みるみるゆがんでく。

「やめてよ、今更なんなの」

「ほんとにごめん」

「みじめなのは、もうたくさんなの!」

知ってるよ。報われない恋はつらいって。身に染みてるいまだからこそ、人生の半分以上の長い時間ずっと離れずにいてくれた、その気持ちの大きさが、強さが、どんな意味を持つのかわかる。
両手で顔を隠してしまった遠野に、そっと問いかける。

「もう、無理?」

髪の毛からちらりとのぞく耳が赤いのは、寒さのせい、だけじゃないと思う。

「……無理なら、とっくに嫌いになってる」

俺のせいで天邪鬼になってしまった幼馴染みは、「嫌い」を使わないと好きを表現できないらしい。
ずっと意地を張り合ってきた相手に素直になるのは勇気がいる。でも、俺はがんばりたい。どんなにはねつけられても、今度は俺が努力する番だ。

「手、繋ぎたいんだけど」

歩み寄る、最初の一歩。

「……しかたないわね」

許されて重なった手は、懐かしい温度だった。