「……それは、無理だ」

 僕の答えに、篠田は、泣いた。

「なんで!」

 それは、僕が吸血鬼だから。

 吸血鬼は、たった一つの愛だけでは、生きてはいけないから。

「どうし……て………?
わたしは先輩のこと、いいえ……先生のこと……今でも好きなのに……。
本当に、本当に愛しているのに!
 邪魔する人は………死んじゃってもいいくらいに………」

 かわいそうな、篠田。

 本当に愛しているのは、過去に別れた「先輩」か。

 昔の記憶を、僕と重ねてだけなのに。

 大粒の涙をぽろぽろと流す、篠田に口付けして僕は、次の言葉が出てくるのを止めた。

 偽りの愛で良ければ。

 お前にあげる。

 仲間を傷つけてまで、このひとときを望んだお前にならば。

「死……?
 では、お前が死ぬまでの間だけなら。
 僕は、お前一人を見つめてあげる」

「本当……?」

「ああ。
 しかし、そのために、高い対価を支払ってもいいなら」

「対価?
 今はお金は無いけれど、どんなバイトしてでも……」

「違う。
 金ではない」

「……え……じゃ……なに?」

 戸惑う篠田に、僕は、吸血鬼の瞳で微笑んだ。