Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】

「……いや、そんなはずは無い……
 人が……人間が、私に純粋に好意を持つなんて」

 残月は、完全に混乱したかのように首を振った。

「それは、何かの間違いです」

「違う」

「……残月……」

 凛花が、泣く。

 泣きながら、残月の右腕を抱きしめる。

「他の誰よりも、何にも変えられ無いほど、残月が好きよ……お願い……信じて」

 そう、その思い一つだけで、凛花は、ここに来たのだ。

 凛花の真剣な思いが。

 眼差しが。

 ようやく、残月にも伝わったのか、彼は、吸血鬼らしからぬしぐさで、おずおずと凛花の肩に触れた。

「……本当……に…?」

「うん」

 凛花の涙に濡れた頬をそっと包んで、残月は囁いた。

「……すまない。
 私はお前の声を何度も聞いていたのに、今まで何もしてやらなかった」

「……うん」

「……それでも、私に好意を……?」

「残月が好き……!」

 残月の……冷酷な吸血鬼の瞳から、涙が一滴、落ちて砕けた。