振り返った先に、人影は無い。

 ただ大きな鏡だけがあった。

 等身大よりやや大きな古い鏡が、スタンド一つだけで照らされた、薄暗い室内をうつしていた。

 しかし。

 僕が覗き込んでも、僕自身の姿は映らない。

 吸血鬼は、鏡に映らないのだ。

 なのに、姿を写さない姿見が寝室の一番良いところを占領していた。

「皇子」

 声が響くと、鏡面に、さざ波が走る。

 そう。

 先ほどからの僕の話し相手は、この鏡だったのだ。