「ちがう」

 残月は、月光に癒された手首を仕舞いながら言った。

「昔……私が……愛した女は、人間だった。
 しかし、どんなに愛しても……子を作る事はできない。
 セックスの意味が、既に人と吸血鬼では違うのだ。
 同じ、愛のかたちの一つであるはずなのに……」

 残月は、そっと目を伏せた。

「愛すれば、愛する程に、相手の寿命を縮めてしまう。
……それを惜しんで、私は、様々な場所を駆け回った事があった……人間になりたかったのだ」

 残月は自嘲する。

 莫迦な願いかもしれないが、本気だったのだ、と。

「人間の世が、世界を巻き込んだ戦争のために、大混乱していた時期の事だ。
 色々あって、新しい身分の収得を……戸籍の詐称に失敗した頃でもあった。
 決して公にはならなかったが、厳しく追跡され、疲れていたんだ。
 ……そんな時『彼ら』と出会った」