「ば……化け物…!」

 息を呑むような声にバルコニーの下を見れば、すぐ横の道に見知らぬ男がいた。

 男は、僕に向かって、震える指を指している。



 ……この姿を、見られたか。



 ネクタイを巻いた顔が赤い。

 酔っ払いが、高級住宅地に紛れ込んだらしい。

 男は、目を大きく見開いたまま、僕を凝視していた。


 ……人に戻るか。

 ……身体を不可視にして、姿を消すか。

 穏便に済まそうとしたら、どちらかにすれば良かった。

 けれども。

 僕は、もう少し、この姿でいたかった。



 今夜は。



 こんな夜は。