月の光を浴びて、僕は薄い人間の姿から『夜』になる。

 手には、指の長さ程の鋭利な爪が伸びた。

 窓ガラスで切った傷は、あっという間にふさがった。

 肩にかかる程度だった黒髪は、床に着き、月光と同じ色になるまで脱色される。

 他に、瞳も、耳も口も。

 人には有り得ない色や形に変化する事を、僕は、知っている。

 ……しかも。

 僕と人とを分ける決定的な変化は、肩にあった。


 ……めきめき…


 鈍い痛みと共に、翼が生える。

 闇夜を凝縮したような漆黒の皮膜の翼だった。

 翼の端についた鋭いかぎ爪が、月光を浴びてキラリと光る。




 あはは……は…

 ……本当に、人と同じなのは、血の色だけじゃないか。

 バルコニーの縁に寄りかかり、僕は、自嘲した。