序章は始まり。


ほんの始まり…。






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少し乱れた掛け布団と疲れた表情で眉を寄せている涼太に私はようやく理解をした。



「―…ごめんな、怒鳴って…」

「ううん、気にしないで?」


でも言えなかった。

必死に隠している涼太に言えるはずなんてない。


副作用が出なかったんじゃない。
ただ我慢していたんだ。


私やママがいる間は努めたように明るくする。


そうする事で私やママが不安にならないように気を遣ってくれていたんだね…。



「少し寝ていいよ?」


辛そうに眉を寄せる涼太にそう言えば、涼太は申し訳なさそうにしながら瞼を下ろした。



本当はすごく辛かったんだと思う。

抗がん剤なんて使った事のない私はお兄ちゃんを見ていただけで、苦しさを理解したつもりでいたんだ。


体験していないのに、理解をしたつもりでいたなんて…

自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。





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「シズちゃん…で合っているかな?」


涼太の寝顔を見ていて気づかなかったけど、いつの間にか先生が横に立っていた。



「頑張ってるよ、涼太くん。よく堪えてると思うくらい。」

「先生――…涼太は…」

「涼太くんはね、努力を人に見られたくないタイプなんだろうね。」


今の私の心境とまるで違う穏やかな声の先生を私は見れなかった。



「だから調子が悪い自分を見られたくないんじゃないかな?

自分の愛する人には特に。」


君ならどうだい?

そう尋ねられて初めて考えた。



――…私なら…見られたくない。

見られたくないし、何より心配をかけたくない。




あ、そっか…涼太も同じなんだね。


だから…私やママには弱った姿を見せたくないんだ。




でもね……?