耳を手で塞ぎ、車の脇を通り過ぎる。 「おい!」 無視だ、無視。 「おいっ!」 これは幻聴。 「無視とはいい度胸しんな」 首根っこを捕まれ、前進出来ない私の耳元で囁かれる、少しくぐもった悍(おぞ)ましい声。 「む、無視じゃない。決してない。そ、そんな事ない」 「……」 「先生だなんて思わなかったんだってばっ」 「……」 「……」 「……」 「な、何で何も言わないの?」 「お前馬鹿だな。喋れば喋る程、ボロ出てんぞ」 「は?何?」 「本物(ほんもん)の馬鹿だからな。しょうがねぇよな」