驚いて振り返ると、黒いベンチコートを来た先生が立っていた。 私の肩には、先生と同じベンチコートが掛かっていた。 「……あ、ありがとう…ございます」 軽く会釈をすると、前に向き直す。 「風邪ひくなよ」 背後から聞こえた低めの声は、今日も優しい。 そう思った矢先、 「お前、これ何なんだ?」 聞こえて来たのは、優しいとは程遠い声。 恐る恐る振り向けば… ノートから目線を上げることも無く、放たれる苦情。 「しょうがないじゃん。寒くて、悴(かじか)んだ手で書いてたんだから」