「遅くなりました」 「お、やっと来た。こっちでタイムとって」 「はい」 早速短距離選手のタイム計測係。 容赦無く吹き付けてくる北風は、次第に体温を奪っていく。 ストップウォッチを押す指に感覚と云うものはない。 タイムを書き込むノートの字は、ミミズが這っているかの様で読み難い。 身体が少しでも熱を作ろうとしているのか、ぶるぶると震えている。 それでも、手を休める訳にもいかない。 だだひたすらタイムをとって行く。 その時―――― 温かさと共に、ふわっと香る先生の匂いに包まれた。