扉を少し開き、顔を覗かせる。 すると、後藤先生の姿だけがなかった。 「すみません。陸上部の吉沢ですが、部室の鍵を貸して下さい」 そう言うと、おばさん先生が立ち上がり、棚から鍵を取り出した。 「はい、これね。また返しに来て頂戴」 「はい、すみません。失礼します」 ペコリと頭を下げ、今度は部室へと向かった。 いつもは騒がしい部室は、静寂に包まれている。 何となく不気味さが漂う。 急ごうと思えば思う程に、手元が覚束(おぼつか)ない。 やっとの思いで鍵を開けると、コートを探した。