安楽死


中川さんはひとしきり泣いた後、手の甲でグッと涙を拭いて指を差した。

「向こうにある公園で・・・」

私達は無言のままで歩き、学習塾の向かい側にある小さな公園に移動した。


公園に着くと歩道から車止めをすり抜けて中に入り、グルリと園内を見回した。

「あそこに」

右側の奥にあるベンチまで歩いて行き、私達は並んで座る。


沈黙を嫌った私が話し掛けようとしたのと同時に、ようやく彼女が口を開いた。

「・・・私も、萌・・・竹井さんが、自殺したなんて思っていないの。誰も信じてくれないけど、自殺する理由が何も思い当たらない。

だって――
先週の日曜日に、彼女が大好きなアーティストのコンサートに一緒に行く予定だっのよ。

それに、今から自殺しようとする人が、行きもしないコンサートの為に服を買いに行ったりすると思う?」


彼女は両手で鞄を抱き締めながら、目を潤ませて話を続けた――