「夜、覚えとけよ。」



低い声で呟かれ、美喜さんの動きが止まった。



あたしと央は思わず顔を見合わせる。



…なんか岩谷さんを怒らせると怖いかも。



「…ケーキ、美味しいね。」


「だな。」



静かになった二人を横目でみながら、あたしはタルトをかじった。



「ねぇ、今度は央のアパートに行こうよ。」


「ええっ?!」


「美喜さん達、行ったことないでしょ。」



やめろ、やめてくれ。



央のそんな声が聞こえてくるような気がした。



「いいねぇ。」



ついさっきまでしんなりしていた美喜さんの目に光が宿る。



「いつ、行こう。」


「来んな、あんただけは来んな。」


「失礼な奴。
大丈夫、へんなことしないから。」


「する。
あんたなら想像もつかないことする。」



本気で顔が青ざめてきた央には悪かった。



でも、いい話のタネでしょ。



タルトを食べ終えたあたしは、コーヒーを一口ふくんだ。



さーて



「いつ行こう?」



央は無表情なまま、バッタリ倒れた。