「夜月!」

着物の裾を泥だらけにして、私は息を切らしながら彼の名を呼ぶ。

少し先に見えるのは、どれだけ遠くにあっても一目でわかる赤い髪。
その赤い髪の彼がこちらを振り向き、目を見張る。

「なで…しこ?」

確かめるように私を呼び、やけに緩慢な動作でこちらまで歩み寄ってきた。
私は近寄ってきた彼の手を握り締め、

「また来たよ。今日も上手だった」

少ない語彙で何とか気持ちを伝えようとすると、彼は不意に目を細めて笑った。
訳がわからずきょとんとしている私に、

「じゃじゃ馬娘が」

そう言いながら、彼は私の頬を袖でなでる。
突然のことにきょとんとするどころじゃなくなって、私は絶句してしまった。

「そんな泥だらけになって」

「え?」


見ると彼の袖にはうっすらと泥が付いていて、さっきの行動は私の頬に付いた泥を拭うためだったんだと理解する。
じゃじゃ馬と言われても仕方が無い。