それからはお互い言葉を交わすこともなく。 山の出口付近で、彼が足を止める。 「ここから先をまっすぐ行けば村に着く。気をつけろよ」 言い置いて去ろうとする彼を、袖を掴んで引き止める。 振り向いた彼は、目を丸くしていた。 「待って!えっと…、ありがとう」 「礼など必要ない。それじゃあな」 黒の世界の中に溶け込んでいく赤を、見えなくなるまでずっと見つめていた。 皆が言っていたような化け物などと、思えるはずも無かった。