彼が愉快そうに笑う。
「とんだじゃじゃ馬娘だな」
「な…っ」
こちらを振り返った瞬間、赤い髪が闇になびいて。
身動きもとれなかった。
「常識にとらわれた奴よりずっといい」
そう言って私の頭をなでる。
「お前、名はなんという?」
「…撫子」
ぼうっとした意識の中で無意識に自分の名前をつぶやき、突如我に返る。
でもこの人になら、名前を教えてもいいような気がした。
「そうか、撫子。…いい名だ」
しみじみと感じ入るようにこぼして、目を細めるその姿さえも闇に映える。
「俺の名は、夜月(よるづき)」
その名前はこれ以上無いほど彼に似合っていて、私のほうも自然と笑みがこぼれた。
「素敵な名前」