木の葉で埋まった道をざくざく進み、山の頂上を目指す。

着物の裾が、泥で汚れる。
息が弾み、汗が滲む。

もしも本当に天狗がいたら、こんな山道を帰ってこれるだろうか。

ほんの少しの恐怖と恐れを胸に潜めて、私はようやく頂上付近までたどり着く。
少しずつ近くなる笛の音に、鼓動が速まる。
ここにいるのは天狗か、それとも人間か。

遠くの木々の隙間から、私は目を凝らして音のするほうを見る。


そしてそこに見えたのは、


「……え」

途端、笛の音がぱたりと途絶える。

「誰だ」

低い声。
見つかる――!!

大急ぎで草を掻き分け、ふもとへ駆ける。

速く。
速く。
もっと速く。
じゃないと見つかる。
殺される。

だってあそこから見えたのは、真っ赤な髪の毛。

あんな色、今まで見たこと無い。

本当に天狗だったんだ。