次の瞬間大きな突風が、辺りに落ちていた紅葉の葉を一斉に巻き上げた。 思わず目を閉じてしまった私の耳に届いたのは、私の頭を撫でてくれるような優しい音。 この音は―― 。 息を呑んでゆっくり目を開けると舞い上がった紅葉は再び地面に落ち、私の目には彼だけが映った。 初めて見る、彼の演奏する姿が。 名前を呼ぶこともはばかられて、ただ黙って余すところ無く視界に入れる。 全ての聴覚を総動員して、隅々まで音を聴く。 愛しい、彼の音を。