「なんで、謝るの…」

やめて、謝らないで。

気持ちに応えられなくてごめんって、そう言われてるみたいだから。
こんなことなら言うんじゃなかったと思った。
そして、そう言われてもまだ好きだ、とも。

彼がむくりと起き上がって自分の笛を見つめ、苦々しく顔をしかめる。


「俺は、誰かのためだけにこれを吹くのが恐ろしいよ。…怖くてたまらない」

「それは、前も聞いたよ」

私はそんなことが聞きたくて来たんじゃない。

続きを急かすような含みを聞き取ったのか、夜月は薄く笑う。

「俺は嫌われているから。だから…」

自分でそう言うのに、どれだけの勇気が必要だろう。
自分が嫌われていると自覚するのに、どれほど悲しい思いをしただろう。

「撫子。お前は、俺と結ばれるべきじゃない」


「なんで…!!」

きん、と鋭い余韻が木々の奥に響いて、その次には視界が滲んで。
もう夜月の顔なんて見えなかった。