謙虚な人ならこんなとき、自分の想いで相手を傷つけたくなくて身を引いたりするんだろう。
本当に強い意志を持つ人は、今までの気持ちを全て取り消すことができるんだろう。
私も、そうしようと思った。
それで彼が楽になるのなら、それでいいとさえ。
それなのに私は、どうしてまたここに足を運んでいるんだろう。
山へ登る足を前に出すたびくじけそうになるのに、
うれしい気持ちも楽しい気持ちも、これっぽっちも無いのになんで。
笛の音色は聞こえない。
いつも聞こえる音が聞こえないものだから、村の皆も驚いた顔をしていた。
無くなって初めて気付いたようだった。
彼の音の素晴らしさに。