あきらめたように声の調子を下げると、彼が焦ったように私の名を呼ぶ。
「撫子…っ」
私は知ってる。
「何?」
こう言えば、もう彼が口を開くことは無いことを。
思ったとおり彼は何も言うことなく、私は冷めた想いを背負って山を下りた。
落ち葉を踏むたびに、足取りはどんどん重くなる。
本当は帰りたくなかったけれど。
「しょうがないよね…」
あんな風に言われたら、無理強いはできない。
私のせいで困らせたくなんて、なかった。
本当は、ちっとも冷めてない。
私の中で想いは、大きく熱くその姿を見せ付けてきて。
見たくも無いのに、目に入ってくる。
これ以上彼に苦しい思いをして欲しくないのに。
知ってる。
わかってる。
天狗と呼ばれる彼を、村の皆から嫌われている彼を、
それでも好きだと思っていること。