それでも彼は、笛を吹こうとはしなかった。

「どうして」

今度は私が言う番だった。

夜月がそっと目を伏せる。
迷うように、戸惑うように、唇にやわらかな音が乗せられた。


「俺は、笛を吹くのが怖い…」

赤い葉や黄色い葉が呑気に舞っているその中で、彼の言葉を理解することができなかった。

なんで?

「毎日、吹いてるじゃない」

彼がああ、とぼやき、

「違うんだ、そうじゃない。誰かのために音を捧げることが…恐ろしくて」

どうして、とはもう言えなかった。
彼が拒むのなら、それ以上問い詰める必要は無かった。

夜月のためにふくらみかけた気持ちはしぼみ、後には何だかむなしくて惨めで目も当てられないようなものだけが残った。

「…わかった」

よくわかったよ。
あなたが、私のために笛を吹いてくれる気が無いってことが。