彼女は首をひねりながらも納得したようで、

「そっか。撫子が嘘つくはず無いもんね、わかった」

普段言われたらうれしいはずの言葉が、今は胸に痛い。
私は何も言うことなくうなずいて友達に手を振った。




帰りながら、そういえば…と思い至る。

私は、夜月が笛を吹いているところを見たことがあっただろうか。
いつも聞くのは彼の音だけ。
彼は私に演奏する姿を一度だって見せてくれたことは無い。

何かわけがあるんだろうか。


けれど彼がそれを教えてくれるわけもなく、私も何となく話を切り出せないまま季節は移り変わっていった。

青い木々は恥らうように赤く染まり、夜月のところへ行く道も色鮮やかになる。
常緑樹は依然としてその緑色を誇っていたし、紅葉や銀杏の葉はその彩りを見せ付けるように踊っていた。

今日も聞こえるあたたかな音色が、不意に止まる。
まるで私が来るのを待つように。