青い木々に、私の泣き声が染み渡って。
情けないところも、恥ずかしい泣き顔も、全部彼にさらした。

お門違いなことがわかっていたから、あなたのせいだとは言わなかった。
彼の優しさを当たり前だと思いたくなかったから。


彼は昨日のように私の頭を撫でながらつぶやく。

「もう怒ってない。だって俺は、うれしかったんだ」

嗚咽をこらえて理由を問うと、

「今までずっとここに来る人なんていなかったから、撫子が来てくれてうれしかった。
…行くなよ。こんなことで喧嘩したくないんだ」

辺りの闇はさっきよりも濃くなって私たちの影を溶かしていく。
そんなことを言われたら、逃げることなんてもうできない。
私だって喧嘩したくない気持ちは同じだったから。

もっと、彼の音を聴きたい。


「また、来てもいい?」

彼がふんわりと微笑む。
この笑顔を知るのが私だけだと思うと、どうしようもなく胸が騒いだ。


「もちろん」