首を大きく左右に振って耳をふさぐと、彼はそれ以上何も言わなかった。

「私、今日はもう帰る…」

気まずい空気を振り払うように背を向けると、

「撫子」

再び私を呼ぶ、優しい声。
振り向きたくなかったから、そのまま立ち止まらずに私はその声を無視して駆ける。
逃げようとした私の腕を引く、大きな手。

「撫子!…すまなかった」


どうして。
謝りたいのは私なのに。
ただそれを口にする勇気が無かっただけなのに、どうしてあなたがそれを先に言ってしまうの。

「行くなよ」

なんでそんなに優しいの…。

「そんなこと、言われ、たって」

「…泣いてるのか?」


夜月のせいだ。
夜月のせいで、こんなに悔しい。

私が先に言おうとしたのに。


私の方が、先に謝りたかったのに。