「金剛戦士Ⅱ」西方浄土

勇太と理絵は難なく上っていく。

勇太はパイロットとして、日々トレーニングを重ねており、理絵は以前の歩き遍路の時に山道で苦しんだ経験から、体力をつけようと病院を退院した後にトレーニングジムに通うようになった。

理絵が通い始めた最初の頃は、由紀も体力をつけようと一緒に通っていたのだが、次第に理絵一人で行くようになり、由紀は、そのうち、ほとんど通わなくなった。

理絵は、それなりに基礎体力がアップしたのであるが、由紀は、まともに続けなかったので元の木阿弥である。

「この石段けっこう、きついわねぇ・・・ねえ理絵」

と由紀が隣を歩き上る理絵を見ながら声を掛けると、理絵は普通に上っている。

「ん・・・苦しくないの」
と理絵に訊いたが

「トレーニングの成果ね。お母さんも続けていれば良かったのにね」と答えた。

長い階段を上り境内にたどり着くと、軽く汗を掻き清々しかった。

参拝の後、石段を下っていると、石段から少し離れた所に恵果あじゃりの墓があった。

恵果といえば、中国の青龍寺で、自らの命が尽きる前に、空海に密教のすべてを伝授した人物である。

何故ここに存在しているのか不思議に思って、分髪か分骨でもしているのかしらと、想像の話をしているところに、不意に後方から

「どうぞ、お参りしてください」
と声が掛かり、振り向くと若い僧が立っていた。