理絵や勇太、由紀が次々と入れ替わりながら話をして、直も時々郁江と交代しながら会話をして、十数分話した後、電話を置いた。

久し振りに直たちの声を聞き、三人とも、もっと色々話したいことはあったのだが、月面基地からの電話は特殊通話となり、料金が高くつき、あまり長い時間はできない。月面基地や火星との通信は、一般には電子メールを利用している。

しかし三人は久し振りに話ができたことで嬉しかったし、安心した。

由紀が直から連絡があって良かったと、喜びながら自分の部屋に戻って数分もしないうちに、理絵たちの部屋を誰かが、コンコンとノックをする。

勇太が覗き窓から確認すると、由紀である。

勇太はすぐにドアを開けて、中へ入るように

「どうぞ」と言い、続けて
「どうかしたのですか」と訊ねた。

由紀が
「慌てて部屋を出て、キーを持って出るのを忘れたのよ」

つまりは自分の部屋に入れなかったのである。

寝間着の上に上着を羽織っただけで、髪は濡れており、おまけにスリッパではフロントへ行きかねて、助けを求めて舞い戻って来たのであった。