「金剛戦士Ⅱ」西方浄土

三十八番の駐車場に車を止めて、お参りを済ませた後、ビロウの林や椿のトンネルを抜けて展望台まで遊歩道を歩いて行き、そそり立つ断崖絶壁の上に建っている足摺岬燈台を眺める。

雨は止んでいるが、あいかわらず雲が東に向かって流れて、岬の先端は風が強く吹きつけてくる。波が絶壁の下の岩礁で砕けて、波しぶきが風で舞い上がり、細かく霧状になって、風に運ばれ、断崖を駆け上がってくる。

灯台の見える断崖上の展望台に立っていると、霧状になった飛沫を肌で感じる。

天気が良ければ、室戸岬のように、遥か彼方に太平洋の大海原が丸く弧を描いているのが、見渡せるのだが、今日は霞んでいて水平線が見えない。

遠くの海は灰色の雲と一体となっていて、空と海の境が分からない。

「室戸岬とは、全然違う景色ね」
と由紀が呟いた。

確かに土佐湾を挟んで西と東で、かなり違う岬の風景である。

室戸岬は目の前に岩礁が迫ってくるが、足摺岬の目の前は断崖絶壁であり、岩礁は遥か眼下に存在する。

「昔はねぇ。ここから海に飛び込み自殺をする人が、たくさん居たんだって。ここから飛び込むと間違いなく死ねたらしいけど、岬の周りの岩礁が邪魔をして、遺体を引き上げるのも、ままならなかったらしわよ」

と芙美子お婆ちゃんが話すと、由紀が
「怖いし、辛い話ですね」
と言って、岬に向かって合掌していた。