まるで眠り姫みたいに目を覚まさない奏多。

目を覚まして俺を見てほしい。
ただ、名前を呼んでほしい。


「………ん…」

「奏多、起きたかい?」


俺よりも二周りは小さい手を握って髪を撫でれば、キョトンとした目をした奏多。
そんな表情がまた愛しくて、優しく前髪を撫で付けてみる。


「拓海、さん?」

「うん、目が覚めたかな?お姫様。」


少しからかうようにそう言えば、恥ずかしそうに布団を目元まで引っ張り隠れようとする君。


「こらこら、ちゃんと顔を見せて。」

「や……」


また泣きそうな表情の君に苦笑を浮かべて、腕を引っ張り、自分の腕で閉じ込める。

泣かないで、泣くなら俺の腕の中で泣いてくれ。

矛盾だらけの心が君にわかってしまわないように。


「奏多、由里に会ったんだろう?」

「っ…」

「大丈夫、俺は奏多だけだよ。奏多しかいらないし、奏多しか愛していないから。」


震える肩を撫で、あやすように背中を摩れば小さく何度も頷いてくれたのがわかった。


「何を言われた?」

「…な、にも…」

「言いたくないなら無理には聞かない。だけど、できる事なら君の口から聞きたいんだ。」


ずるい言い方をするしかない。
こう言えば君はきっと躊躇いながらでも話してくれるだろう?

一人で抱え込ませたくないんだ。
君の苦しみをほんの少しでも取り除いてやりたいんだ。