『かたよくを 引きちぎられた 天使はみずからの 血を ながめて いました』

『その血は どこまでも あふれ、ながれ、ひとびとの のどの かわきを いやしました』






遠い昔聞いたどこかの国のお伽話は
美しく、切なく、残酷だった
 
この世はお伽話のようにはいかないのか?
華やかなハッピーエンドか
それでも救いのあるアンハッピーエンドか
 
けれど俺にそんなものが訪れることはない
どす黒い血にまみれて最後の糸も断たれるだろう
 
だが、天使たちはそんな俺にも世界を教えてくれた
 
答えが必ずしも一つではないように
世界も必ずしも一つの教えで断ずることは出来ない
 
処刑台に積もるこの雪でさえ
奇跡のように思えるんだ
 
君の笑顔は、もう、思い出すまい
ただ、全てを塗り変えていく雪を見ていてくれたら、という思いだけがある
 
この世界に俺がいたという証をこの雪に刻んでみようか
春が過ぎればひとかけらも残らない、この雪に
 
 
 
 
 
 
『やがて天使は、はての ない ねむりに つきました。その年の ゆきは いつもより 多くふり、すべてを 白に かえて いきました』

『つぎの春、ゆきの ような 花が さきました。けれど、その花の 名を しる者はだれひとり いませんでした』