「あなたに私の顔をどうこう言われる筋合いはないわよ。自分の顔を鏡でよく見てからそういうことは口にするべきね。」


右手に持ったシャーペンを机につきたてる。かちん、という音が脳を刺激して、余計に苛々が増す。
私は、一見頭が悪そうなのに勉強ができる、そんな優等生が嫌いだ。しかしそれよりもさらに、この佐伯琢磨のような…ただの馬鹿が嫌いだ。

「お前、いま俺のこと頭わるいやつだとでも思っただろ、そういう目をしてる」

「いいえ。どうしようもない馬鹿だと思っただけよ」

「おま…!なんだよ!ちょっとからんだだけじゃんよ」

「少しは黙るということも覚えたら?無駄にうるさいのよ、あなた。」

ぐぐ、っとくぐもった声が聞こえて、すっと視線を佐伯琢磨に向ける。眉間に深くよったしわとチョコレート色の瞳に視線がぶつかった。

「だいたいなあ!俺だってなんでお前なんかと同じ高校で、しかも同じクラスなのかと」

「言っておくけどそれは私の台詞よ。中学からやたら私にかまってきてアナタなんなのよ?暇なの?友達いないの?可哀相な人ね」

「勝手に決め付けんじゃねえ!」

ばん、と強く机をたたいて、真っ赤な顔をした佐伯が椅子から立ち上がる。
一拍置いて感じられたのは、クラス中の視線と…数秒後の、ざわめき。



やっぱり馬鹿なんだわ、と心の奥でつぶやいたとき。教壇に両手を乗せ眉間にしわをよせた担任が口を開いた。


「そこの、新学期早々いちゃついてる二人…清水と、佐伯。あとで職員室に来なさい」