「アイツ、今はバンドやってるんだ」


「少しずつだけど、変わってきてるよ」


ドアの向こうからぽつりぽつりと聞こえる、奴の伯父だという男のしゃがれた声に、俺はいつもため息を吐いていた。


…またかよ、って。
懲りずによく来るなって。

でも心の奥では、アイツがものすごく羨ましかった。

父親って存在に、憧れていたから。


別に、母子家庭が嫌だったわけじゃない。ただあのころは、本当に少し、少しだけ、父親がいる家庭ってどんなもんなんだろうって思っていたから。


だから、アイツには血のつながりなんか無くても、そんな存在がいるんだってことが凄く羨ましくて。


でも羨ましく思っている自分が、嫌で。


耳を塞いで、壁を作って。


……頑なにドアを開けなかった理由は、本当は、たったそれだけのことだった。






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