グイッと無理矢理腕を引っ張られ、海から遠退いていく。
白の柱は完全に崩壊し、道は見えなくなっていた。
「痛い…痛いよチェシャ猫…!」
私の声なんて聞こえていないかのようにただ砂浜を進んでいく。
「…ついに叶う。俺とアリスだけの…アリスと俺だけの…不思議の国が…」
『 不思議の国 』。
その言葉に鼓動が高鳴る。
「不思議の、国…――?」
この国の名前は、不思議の国?
チェシャ猫がいて
黒い兎さんがいて
あと、えーっと…
「…チェシャ猫、この国には沢山の人たちがいたよね?
私とチェシャ猫だけの世界にしたら、その人たちはどうなるの?」
思い出せない人たちのこと、
なのに胸に何かが引っ掛かる。
「ホカノヒト?何を言ってるんだよアリス。
この世界は俺とお前だけいればいいんだ。
ホカノヒトなんて必要無いだろう?」
楽しそうに歪んだ顔
笑いながら言う身勝手な言葉
私だけを欲する独占的な視線
これが私の好きなチェシャ猫――?

