ゆっくり
ゆっくり
足を進める。
水位が下がり、海の終わりが見え始めた。
あと少し、あと少しで…
バシャ ピチャ 。
ポタリ、ポタリと真っ赤な雫はタレ落ち砂浜に雫点を残す。
木陰に揺らぐ 暗紫の瞳。
風に靡く 漆黒の髪。
「… チェシャ猫っ!!」
体は無意識に駆け出した。
夢中で 夢中で 駆け出した。
「 さすがアリス。信じてたぜ。」
愛しい人は笑う。
嬉しそうに口元を歪ませながら
くすくすと可笑しそうに、口元を歪ませて、笑っていた。
「 チェシャ猫…?」
「どうしたんだアリス。」
答えたチェシャ猫は普通のチェシャ猫だった。
「アリスが俺を選んでくれたお陰で力がみなぎるよ。鈴の力なんてなくても俺は俺でいられる。」
楽しそうに言うチェシャ猫に若干、違和感を感じた。
「なあアリス。お前、本当に元の世界へ戻りたいのか?」
「私は…――」
私、本当はどっちだった?
「帰りたくないなら、帰らなくて良い。このまま俺と共に…――」
目が眩む。体が揺らぐ。
催眠術にかけられたかのように、暗紫の瞳に吸い込まれる。
「なあアリス。
俺とお前と 二人で
この世界を壊そう?」

