「舟…舟は?どうやって…どうやって渡ればいいの?」
周りを見渡しても、舟どころか何一つ無かった。
「ちぇしゃ……チェシャ猫…」
頭が、体が、壊れてしまったみたいだった。
ただ、チェシャ猫だけを求め、何も見えていなかった。
「 ア リ ス 。
一歩、足を踏み入れろ。
お前は ア リ ス 。
誰もお前を拒めない。」
頭に響く 猫 の囁き。
ピチャ 。
赤い水は冷たかった。
そして私の汚れた靴を、ドレスを、さらに赤く色付ける。
ピチャ バシャ 。
腰辺りまで水位が来ると、
足元に道があることがわかった。
「 それがアリスの通るべき道。」
声が先程より近い。
確実に、チェシャ猫との距離は縮まっている。
浮き足立った時だった。
道が左右に別れていた。
進むべき道は ただ一つ。
白い柱が浮かぶ海道か。
それとも
黒い柱が浮かぶ海道か。
私は迷わず白を選んだ。
だって、黒は嫌いだもの。
さっきの兎さんを思い出すから。

