─ Alice ?─




目の前で黒い人が私を見つめていたの


とても綺麗な瞳をしているのに


とても心が汚いと思った。




私は、この人を知っている筈なのに



何にも思い出せなかったの。






『な…んで…――っ!!ありすっ…僕だけの、ありす…』



可笑しな人。

私はありすなんて名前じゃないのに。


私は ア リ ス よ?


私は不思議の国の ア リ ス 。




黒い人は涙を流しながら、私に訴えかけてきたけれど


私は何にも思い出せなかった。



それよりも、早くチェシャ猫に会いたい。


私は黒い人を振り切り、急ぎ足で薔薇のトンネルへと進んだ。



『なんで!!!!どうしてなんだよありすっっ!!!!!僕のことがっ…黒兎のことをどうして忘れているんだよっ!!!!さっきまで…つい、さっきまで…一緒にいたのにっ!!!!』



ああ、そんな名前の人いたかもしれない。


けれどどうでもいいわ。





私にはチェシャ猫さえいればいいの。