「…はっ……はあっ…っ!!」
無我夢中で走り続けた。
息も切れ、次第にペースは落ちていった。
「―― イカナイデ。
ボクノ
ボク ダケ ノ ありす …――!!」
懐かしい声は私を追いかけてくる。
すぐ後ろにまで迫ってきているのに、薔薇園を抜けた途端、私は何故か焦りが消えていた。
ペースの落ちた私の足は、次第に歩く速度になり、止まった。
「―― ありす。 マッテ――」
後ろから肩を掴まれ、体制を崩し、懐かしい声の主に体を預ける形になった。
「 僕からは逃げられないよ?」
クスリと笑う彼はとても綺麗で
胸が少し高鳴ったけれど
「…… あなた、誰?」
懐かしい声なのに
初めて恋した相手なのに
あなたのことが
思い出せないの。

