目の前にはチェシャ猫がいる。
あの森で姿を消したチェシャ猫。
守れない、と私に告げた
【 忠実な猫 】が
今、私の前にいる。
「な、んで…?
どうしてチェシャ猫が
此処にいるの!?」
思わず声が震える。
嬉しいからなのか
驚きからなのか…
それとも恐怖か。
考える余裕なんてなかった。
『…何の用?
役立たずは引っ込んでなよ、
チェシャ。』
「【 役 】ならある。
守ることはできないが
【 導く 】ことは出来る。
それに、役立たずかは
アリスが決めることだ。
白兎には関係ない。
それに…
時間がないんだろ?」
迷いなんてない、と
キッパリ言い切る姿は、
以前のチェシャ猫と同じだ。
時間がない、の意味は
わからないけれど…
『……やっぱりあの時、
君を【 玩具 】に
選ぶべきだったよ、チェシャ。
まあいいや。
どうせアリスは
僕の【 モノ 】になる。
僕だけの ア リ ス に。
…アリス、
黒兎のことは諦めて。』
笑顔で白兎は私に告げる。
だが、
その目はとても冷酷で。
とてもじゃないが
言い返せる勇気なんて
私にはなかった。

