私は大の山好きだった。
「すごい綺麗…。
先輩は何でこんな素敵な絵が描けるんですか!?」
作品から目を離さずに皐月が少し興奮気味に言った。
私は皐月の隣に行き、一緒に絵を眺めた。
「ありがとう、皐月。」
私は褒められる事に慣れていないので、こう絶賛されると何て言ったらいいか分からない。
とりあえず、お礼を言ってみた。
皐月は完全に私の絵の虜になってしまったようだ…。
そして一息、感嘆のため息をついて私に目を移した。
「何か、コツとかあるんですか!?」
皐月は目をキラキラと輝かせている。
それは、もう少女漫画に出てくる恋する乙女の瞳だ…。
「コツか〜…。」
普段からあまり自分でそういうものについて深く考えた事がなかった。
それに、今までにそういうことを聞かれた事もなかったから、何て言ったら良いか分からなかった。
そう言われて改めて考える機会を得た私は、描く時の自分の姿勢を思い出しながら考えた。
普段、自分がどういう所に気をつけていたのか、
そして、どういう思いで描いていたのか…。
答えは思ったよりも簡単に出てきた。
「コツになるかどうか分からないけど
絵を描く時に、
その時感じた思いがどれほど絵に表す事が出来るのか、
って事かな…。
まぁ、絵の表現の仕方は人それぞれだと思うけど、
私はそういう事に注意して描いてたと思う。」
私はニコッと皐月に笑いかけた。
皐月は尊敬の眼差しで
私を見て
絵を見た。
「へぇぇ……!
私も先輩みたいに、金賞を取れるような絵を描きたいです!」
皐月は満面の笑みを私にくれた。
可愛いな…。
こんなに熱心に慕う後輩を
可愛いと思わぬわけがない。
「彼女のような金賞を取るには並大抵な努力じゃ無理だよ、津野さん。」
真剣に絵を見ていたせいか、いつの間にか隣に立っていた人影に気がつかなかった。


