人がせっかく(心の中で)尊敬してあげたっていうのに!
何だ、その言い草は!
何で怒ってんのか知らないけど、1人で勝手に怒ってればいいよ。
私はそう思うや否や、歩く自分のペースを上げた。
我ながら子供っぽいと思うけど。
明らかに歩くのが早くなった私に実春が驚いて口を開く。
もちろん、声は背中から聞こえた。
「ちょ…っ!おい、何で歩くのが急に早くなるんだよ!」
「別に。」
実春と同じ言葉で返してやる!私を怒らせた実春が悪いんだからね。
「何怒ってんだよ、おい沙矢。」
「別に怒ってないじゃん。」
…本当は怒ってます。
私は歩く早さを変えずに言った。
「じゃあ何で急に態度変えんだよ!」
「だって先に不機嫌になったの実春じゃん!」
私は足を止め、後ろを振り向く。私が急に振り返ったことに一瞬実春が驚いた顔をする。
「何が嫌なのか、はっきり言ってよ!私はそうやって何も言わないで不機嫌になられるの嫌い。」
私の声が廊下中に響く。
こんなとこ、誰かに見られたら恥ずかしい。
明らかに痴話喧嘩。…というか私が勝手に怒鳴ってるだけなんだけど…。
幸い準備に追われてか、誰も出てくる気配はなかった。
何で私が怒ったのか分かった実春は、少し顔を歪めて
「…悪かったよ、不機嫌になって。
けど、何でオレが怒ったのか言われる前に気付けよ。」
と言って顔を背けた。
もしかして、
やきもち…?


