君のそばに

しばらくの間、私は柚の練習している姿に見入ってしまっていて、私を呼ぶ声に気付かなかった。


「……伍棟先輩…!」


何度目かの声に私はハッとして後ろへ振り向く。


「ああ、皐月か…どうしたの?」



津野 皐月(つの さつき)


1つ下で、私に憧れて美術部に入部したらしい。
大きい瞳と眉毛の上で切り揃えられた前髪(いわゆる、パッツン)がとても似合っている。
ワイシャツはしっかり第一ボタンまで締め、スカート丈も膝にかかる程度。
外見から真面目だという事が伺える。



「どうしたの、じゃないです!何回呼んだと思ってるんです!?
5回!5回ですよ!?」


皐月は手のひらを広げて、5という数字を強調した。


数えてたのか…。


私は、ごめん、と謝って何の用か尋ねた。


皐月はまだ何か言い足りなさそうな雰囲気を漂わせていたが、それはひっこめて用件を話し始めた。


「この間のコンクールの作品が戻って来ているみたいですよ!」


「あ、そうなの。」


何だ、そんなことか…。

私は大して気に止めず軽く受け流した。



その態度がお気に召さなかったのか

皐月は、そうなのじゃありません!と私を怒鳴りつけた。