「……伍棟を離せ、実春。」
ここへ来て、嘉賀くんが初めて言った言葉だった。
私はこの後、嘉賀くんと会う約束をしていたわけだから、
ここでこんなことをしていたのを怒られると思っていた。
…だから、この嘉賀くんの言葉は意外だった。
「…何でお前に指図されなくちゃならない!?」
実春はそう言い、その口調に合わせるかのように、私をさらに強く抱きしめた。
……正直、少し痛かったけど、この状況でそんな事が言えるハズもなく、
私はただ黙って双子のやりとりをヒヤヒヤしながら聞いていた…。
「…伍棟はお前の物ではない。…勿論、オレの物でもない。
だから、そんな変な対抗意識から伍棟を縛るのは寄せ。」
嘉賀くんは実春の言動に取り乱すこともなく、ただ淡々と言葉を紡いだ。
「……んだよ…っ!偉そうに…!」
実春はそれに対抗するように、腕に力を入れた。
まるで、”沙矢は渡さない”というかのように…。
「…何を意地になってるんだ。まるで子供みたいだな。」
嘉賀くんの目元がキュッと収縮する。
「…ガキでも何でもいい…ッ!
…意地にでもなんなきゃ、…沙矢は、お前に取られちまう…!
オレだって、ずっと…−!」
実春の声が、震えている…。
…実春……そんなに私のことを想っていてくれたんだね…。
気付かなかった……いや、気付こうとしなかった私を、…許して下さい…。
震える実春の腕の中で、私はそう思った。


