君のそばに


「こら〜!憎き総合2位!!待ちやがれ〜ッ!!」


目を光らせながら柚は教科書片手に走り去って行った。



憎き総合2位って……(笑)

柚、ただ単に実春を叩きたいだけでしょうが……。


私は遥か彼方へ消えて行った2人を見送りながらそんな事を考えていた。




「………」


柚たちがいなくなり、

2人きりになってしまった事に気がついた私は、

ゆっくりと彼を見た。



彼も私の方を見ていた。





何…この空気…。…かなり気まずい…。しかも、実春の兄貴もこっち見てるし…。

何か、喋って欲しいな…。

私は微かな願いを込めてじっと見ていると、


それに反応するように、実春の兄貴が口を開いた。


「…悪い。呼び出しなんかして…」


嘉賀くん(”実春の兄貴”って呼ぶのが面倒)は、目を反らしながら言った。


実春と話していた時のような感じはなく、どこか、よそよそしい…。

初対面の人だから緊張でもしているのだろうか……?


「い、いえ…別に…大丈夫ですけど…。
何か、私…悪い事でもしたんでしょうか……?」


私は内心ビクビクしながら聞いた。


しかし返事は私が思っていたようなコトバではなかった。



「…いや、そういうわけじゃなくて…
あの君って、美術部だろ?」


「…はい……?」


美術部ですけど…何か?


いきなりされた単純な質問に私は少し驚いた。


「この前、たまたま美術館に行ったんだ。そしたら、君の絵があって…。
それが…本当に、素晴らしくて…
……。

ただ、それだけだ。」


嘉賀くんそう言うと、くるりと私に背を向け去って行った。



な、…何だったわけ……
ていうか、用はそれだけですか……


私は変な期待をしていた自分が急に馬鹿に思えてきた。


わけ 分かんないんですけど。


私は眉間にシワを寄せて、教室にトボトボと帰って行った。