「前園由衣!」


しんみりともの思いにふけっているところをいきなりフルネームで呼ばれ、驚いて振り返った。


スーツを着た桜井透真が、グラウンドの方から歩いて来る。


幻覚かと思った。


寂しすぎて、悲しすぎて、ついに透真の幻が見え始めたのかと……。


が、幻覚にしてはやけにハッキリした輪郭。


「ほ、ほんとに桜井さん? な、なんでここに……」


「俺、来月から由衣の担任らしい」


「う、嘘……」


「ほんと。鳴沢理事長から頼まれたんだ」


鳴沢先生のお父さんから……。


鳴沢先生、きっと理事長に全部打ち明けて学校をやめたんだ。


「まぁ、理事長に頭さげられたらイヤとは言えないし」


その生意気な顔がいとおしい。


それなのに
「象が嫌いな飼育係の次は女子高生の嫌いな先生になるの?」
なんてイヤミな言葉が口から出る。


―――違う。


私が透真に伝えたかったのはこんなことじゃない。