「王!」
 先程とはまた別の剣と外套を纏った兵…否、騎士が慌ただしくアルスアインドの元に駆けつける。

「何事だ…?」
 騎士団が全滅したか、敵が城内に攻め込んで来たか。最悪のパターンばかりを予想していた王だったが、次に放たれた騎士の言葉は王の予測予想を遥かに上回る物だった。



「アルスアインド包囲中の帝国軍が全滅!城下町のビーストも駆逐されました!戦争の勝利です!」
「…………え?」
「王!救世主です!救世主がこの国に舞い降りたのです!」
「………」

王はゆっくりと立ち上がり、室内を出て廊下にある窓から外の様子を見た。そして、絶句した。



アルスアインドの騎士兵士達が勝利の旗を上げる姿、帝国魔軍が誇るビーストの死体の山、平原の果てに撤退する黒と赤の十字架、帝国魔軍の旗―――。



 思わず頭を抱えた。数分程経って何とか落ち着きを取り戻し、王はその騎士に事の発端を聞く事にした。










三十分程前。

「…う…?」
 ………僕は、一体何をしてたんだろう…?頭を襲う激しい痛みを何とか殺しながら、僕は窓を開けた。

「…!?ぉ、ゴボェえッ!」

 換気のつもりで開けた窓から漂って来たのは肉の腐った臭い、精液のこびりついた臭い、鉄の臭い、何かが焦げた臭い…。
 一気に流れ込んで来た異臭に思わず胃液が逆流してしまった。


「何だ、この臭い…!」

 だけどそれと同時に、頭は一気に冴えた。僕は、いや、俺は…。


「…思い出した、確かライトノベル読んでたらいきなり視界が反転して…クソ、天才たる俺が一瞬とは言え記憶喪失に陥るとは…一生の不覚だ…。」


 辺りを見渡す。有るのは椅子と食器棚とベッド…地下室と対して変わらない家具の配置だが、質が違う。こんなモノ天才たる俺には似つかわしく無い。
 とりあえず俺は状況把握の為に家を出る事にした。その際靴が無いから作った。魔法って便利。

 ―――目に飛び込んで来たのは惨劇。目も当てられない血と死体の量。だが俺は憤りよりも歓喜を感じてしまっていたのだ。天才たる俺がこの状況を理解するのに要した時間は三秒。そうだ。俺は…




 異世界に、来たんだ―――!