「王!騎士団はヒトケタ小隊を除き全滅!このままでは…!」
 所々が火に包まれて崩壊している城の中を、槍と甲冑に身を包んだ兵士が奔走する。
 赤いコートと金の装飾に身を包んだ40代の男性は、幼い娘を抱きながら眉間に皺を寄せた。


「…もう、アルスアインドの時代は終わったのかも知れんのぅ…。」

 若かかりし頃、剣を持って戦場を駆けた記憶が蘇る。
(…いざとなれば、子供達だけでも安全な所へ…)

 腕の中で震える少女は涙を流しながら父親の右腕にしがみついている。幼いながらに現状と絶望を感じているのだろう。



「おい、そこの兵。…娘を、シルフィーヌを守ってくれぬか。」
「はっ…?し、しかし王は」
 どうされるのか、と聞こうとしたが止めておいた。あの目を兵は知っている。あの目の奥に宿る炎を知っている。アレは覚悟を胸に秘めた者の強い意志を宿した瞳。兵はただ無言で王に敬礼を残し、シルフィーヌを抱えた。



 シルフィーヌは父親から引き離される事に抵抗したが、大人に力で適う筈も無く。泣き叫びながら兵士に抱き抱えられた。

「やだ!パパ!パパと一緒に居るのぉ!」

 兵士はその小さな女の子から父親を奪ったような錯覚に捕らわれ、思わず下唇を思いっ切り噛んでしまった。血が口から垂れている。王妃も王子も既に避難を終えている…後はこの王女、シルフィーヌと…。

「…王、どうしても、此処に…?」
「くどい。私は此処に残る。私は死ぬ時も王として在り続ける!」

 兵士はその言葉を聞くと王座の裏にある隠し階段へ向かった。

「…貴方に、アルスアインドに仕えていられて、光栄でした…!」

 口から血を、目から涙を流しながら兵士はその場を去った。シルフィーヌの泣き声も、聞こえない。





「…さて…。」

 王座に座る。
 死を前にしても曲がる事の無いその姿は、正に一国の王として威厳有る姿であった。…この国の為に死んで逝った兵、騎士の姿が目に浮かぶ。自分も彼らの後を追って、天国へ行けるのだろうか…?そんな思いがアルスアインド王の脳を駆け巡る。